ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学
政経学部の自信

編集部:国士舘大学法学部で、学生たちはどのようなことを学ぶのですか?

 一般的に学生は、大学での学びを通して、自分の強みとなるアイテムを身に付け、社会に出て行きます。法学部の場合は、それが法律であるということです。
 人は社会の中で、一人で生きているわけではありません。世の中には大勢の人がいて、いろんな考え方で生きています。法律というと堅苦しく聞こえますが、単に各人が権利を主張するだけでなく、みんなが「お互い様」の関係の中で生きてきて、共通のルールのようなものができてきたと考えます。それが「法律」という文書になっているだけです。そもそも法律とはどういうものか。どういう考えによってそれを理解すべきなのか。そのようなことを学ぶのが、法学部というところと考えます。
 国士舘大学の法学部は、大きく「法律学科」と「現代ビジネス法学科」の二つに分かれています。「法律学科」では、憲法を頂点とする伝統的な法体系に基づくカリキュラムで、私法及び公法を学んでいきます。一方、私が担当している「現代ビジネス法学科」は、企業法務を中核とし、より実践的にビジネスの世界で活かせる法学の知識や考え方を学んでいきます。

編集部:先生はどのような授業を担当されていますか。また、その中でどんなことを教えてらっしゃいますか?

 私が担当しているのは、「租税法総論」や「法人税法」「国際課税法」といった租税法に関連した授業です。
 授業の中では、まず、「みなさんの暮らしは税とどのように関連していますか」ということから考えていきます。たとえば、毎日の暮らしにおいて、物を買えば消費税がかかってくるし、給料をもらえば所得税がかかります。マイホームを取得したら、契約書を作る段階で印紙税が要るし、登記したら登録免許税が要るし、不動産を所有したら固定資産税がかかってきます。
 それだけではありません。普段の生活を考えてみてください。朝起きて顔を洗うときは、水道を使いますよね。水道施設の大本のところは、税で作られています。玄関を一歩外に出れば道路があります。道路をタダで使えるのも、それが税で賄われているからです。
 また、警察や消防によって日々の暮らしが守られているのも、税金のおかげです。このように、私たちの日常の隅々にまで、税は関わってきているのです。私は実務家教員でありますので、法の理論と実践を結びつけ、生活や企業活動をする上で、どのように税や租税法が関わっているのかを意識して学べるようにしています。

編集部:租税の歴史などについても、学んでいくのでしょうか。

 はい、もちろん税の歴史についても教えています。そもそも日本と外国では、税に対する意識に違いがあるといわれています。それは税の歴史によるところが大きいと考えます。
 日本の場合は「公地公民」といって、民も土地もすべからく支配者のものでした。そして、「租?庸?調」から始まり年貢制度があり、税は支配者によって取り上げられるものでした。明治になって、納めるものは「米」から「お金」に変わりましたが、基本的に「税は取られるもの」という意識は変わりませんでした。戦後、日本は民主国家になりましたが、それでもなお「税は取られるもの」という意識が根付いています。
 これに対して、海外はちょっと違います。王がいて、国民から税を取り上げていたところは同じですが、たとえば英国の「マグナカルタ」や仏国の「人権宣言」などから、市民が国王から課税権を勝ち取った歴史があります。
 米国国民は独立することによって課税権を獲得したからこそ、国から「取られる」というより、自ら「納める」という意識の方が強いといわれています。このようなことから、税の歴史について説明しています。

編集部:なるほど、税は「取られるもの」と思っていましたが、違うのですね。

 確かに税は、国等によって徴収されています。憲法にも「納税義務」があると定められ、国民は法律に従って納めることとなっています。
 でも、考えてみてください。その法律を作っているのは誰でしょう。立法府である国会ですよね。その国会議員を選んでいるのは誰かというと、国民です。つまり、国という支配者によって税が勝手に徴収されているのではなく、国民主権のもと、国民自らが決めたルールによって公平に税を負担し、そのお金で国の財政が賄われ、さまざまな公共サービスが提供されているのです。
 課税権はあくまでも国民にあって、私たちは税を賊課徴収する権限を行政府に与えているにすぎません。だから、もし税の不公平や無駄使いがあるとしたら、国民はそれを正していく必要があります。そういうことも授業では学生に伝えています。

編集部:ゼミでは、どのようなことを学んでいるのでしょうか?

 ゼミは2年生から始まりますが、はじめの1年間は、租税法の本を一冊じっくり読み込んでいき、基礎的な知識や考え方を身に付けてもらいます。一冊を自分のものにしておくと、後で分からなくなったときに、そこに立ち戻ることができるんですね。
 3年生になると、より具体的に、判例等を読み解きながら、みんなで意見を交換し、ディスカッションを行っていきます。そして、ゼミの後半になると、どれか一つ自分で判例を選び、より深く研究していきます。
 4年生になると卒業論文の作成にとりかかりますが、私からは「3年次に選んだテーマで卒論を書くといいよ」と勧めています。なぜなら、卒論で学んだことを就職活動に活かすことができるからです。公務員でも企業の面接試験でも、よく聞かれるのは「大学で何を学びましたか」ということです。サークル活動やアルバイトのことを話す学生もいますが、私としては、ぜひ卒論に結びつく研究のことを話してもらいたいと思っています。就職活動も、その方がうまくいくでしょう。

編集部:租税法の判例というと、具体的にはどのようなものがあるのですか?

 そうですね、仕事をして稼いだ所得が「給与所得」なのか「事業所得」なのかといったことが、裁判で争われるケースがあります。たとえば専門性の高い弁護士、麻酔医、演奏者などの場合は、自分のスキルを活かして仕事をした場合、それで稼いだお金が「給与所得」になるのか「事業所得」になるのかで争われるケースがあります。給与所得と事業所得とでは、所得の計算方法が違うんですね。また「源泉徴収」が必要かどうかやその方法が異なったりします。こういった判例を細かく見ながら、ゼミではディスカッションをしていきます。

編集部:ここで学んだ学生は、将来、どのような道に進んでいくのでしょう。

 民間の企業に行く人もいれば、公務員になる人もいますし、将来の道はいろいろです。もともと国士舘大学は公務員志望の学生が多く、地方公務員の警察官、消防官などを目指す学生が大勢います。これに加えて、私が学生に勧めているのは、「国税専門官」という職種です。
 国税専門官は国家公務員で、税務署等に勤務して、集めた税を管理したり、適正に申告納税が行われているかどうかを調査したり、納付されない税を徴収するといった仕事を行っています。組織としては国税庁があり、さらに全国12の国税局等があって、その管轄下に税務署があります。年間千?千五百名の採用があるので、それほど難関というわけではありません。大学で頑張って勉強すれば合格できると思います。採用が各国税局ごとになるので、地方公務員と併願できるというメリットもありますね。
 国士舘大学には、「国を思い、世のため、人のために尽くせる人材の養成」という建学の精神があります。国税専門官は、まさに国家、国民の役に立つ大切な仕事なので、国士舘大学の学生には向いていると思います。一般的にあまり知られていない職種ですが、学生にはぜひトライしてもらいたいと思っています。

編集部:法学部の大学院には、税理士を目指している人も多いようですね。

 国士舘大学の「法学研究科」は、税理士資格取得に関しては伝統のある大学院で、これまでに多くの税理士を輩出してきています。本学の大学院を修了すると、税理士試験の税法3科目のうち、2科目が免除されることになっています。
 もともと税理士は、経済や経営学部の出身者が多いのですが、近年は課税庁の課税処分に対して不服を申し立てるケースが多くなり、弁護士だけでは対応しきれず、訴訟の段階で税理士の活躍する場が増えてきました。国士舘大学の経営学部には、「経営学研究科」という大学院があるので、両研究科が連携して税理士を養成するという流れを作りたいと思っています。
 現在、在籍している大学院生は、会計事務所や企業の経理課に勤めている社会人が多いのですが、今後は学部から税理士を目指す道があることもアピールしていきたいと思っています。

編集部:先生は国税局に勤められていたそうですね。なぜこの道に進もうと思われたのですか?

 実は私、もとは教員になりたかったんですね。野球をやっていたので、野球部の顧問をやりながら、社会科の先生になりたいと思っていました。ところが、当時は教員が狭き門だったので、また、家庭の事情もありまして、大学に進学して教員を志すことは断念しました。
 それで進路指導の先生と相談していたら、「働きながら勉強できる道があるよ」と教えてくださって、高校を出てすぐ公務員になりました。当時はまだ国税専門官という職種はなく、国家公務員の税務職というものでした。
 入署早々、千葉の船橋に税務大学校東京研修所というところがあって、そこで1年間みっちり法律の勉強をしました。大学の法学部で学ぶ2?3年分の知識を、1年間で詰め込みました。それから税務署職員の仕事をしながら、社会人が通える大学に通い、会計の勉強をさせてもらいました。その後は大学院の修士課程に行って、国際的な特許に対する課税のことなどを学びました。
 このように、私は現場で仕事をしながら税法の理論を学んできたので、自分では理論と実践の両方をうまく結びつけることができると思っています。国士舘大学では、実務家の経験を活かして、より実践的な学びを行うように心がけています。

編集部:最後になりますが、大学の4年間の学びを通して、どのような人間を育成したいとお考えですか?

 そうですね。一つは、「法的三段論法」というものがあります。相手に意見を表明するとき、結論だけを言うのではなく、しかるべき根拠をちゃんと示して説得するという手法です。このようなロジカルな思考は、法曹の世界だけでなく、一般のビジネスでも役立ちます。ぜひ、論理的に筋道立ててものを考え、結論を出せる人になってもらいたいと思っています。
 もう一つ、大切にしたいのは、人間関係です。はじめにも申し上げましたが、世の中は決して一人では生きていけません。「お互い様」という言葉が私は好きですが、みんな助け合って生きています。だからこそ、人間関係をうまく築ける人になってもらいたいと思っています。いくら能力に長けていても、人間関係がうまく行かなければ、組織で力を発揮することはできません。民間企業でも、公務員でも、それは同じです。
 法律の専門知識も大切ですが、学校でいちばん覚えてほしいのは、「お互い様」で協力し合える関係をつくること。それは相手を認めることから始まります。相手を認め、自分も認めてもらい、互いに認めあえる「共生」の精神が大切だと考えています。
 そのために、私のゼミでは合宿に行ったり、みんなで何かに取り組んだりする機会をできるだけ増やしています。一緒に旅行したり、ご飯を食べたり、スポーツで汗を流したり、そういう中で関係を深めていって、学生たちには仲よくなってほしいと思っています。「一人より、二人」で、協力し合えば、プラスアルファの力が生まれます。人間形成の場としての大学教育において、私はそこを一番重視しています。

斉木 秀憲(SAIKI Hidenori)教授プロフィール

●修士(法学)/筑波大学 ビジネス科学研究科 企業法学 修士 修了
●専門/租税法

掲載情報は、2021年のものです。
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