国士舘大学文学部史学地理学科「地理?環境コース」を卒業した近藤建斗さん。指導教員である長谷川均先生のもとで学んだ知識や経験を活かして、航空測量の会社に入社し、現在は最先端を行くドローンを活用したビジネスの分野で活躍しています。卒業生の近藤さんと長谷川先生の対談をもとに、国士舘大学文学部での学びと、その先の進路についてご紹介します。
大学時代の学びについて
- 編集部
- 近藤さんが専攻していた文学部史学地理学科の「地理?環境コース」で、学生はどのようなことを学ぶのでしょうか?
- 長谷川
- 国士舘大学文学部の「地理?環境コース」は、文理融合の学びを目指しています。地理と環境を総合的に学んで、地球環境や資源問題、都市開発、景観形成、地域振興といった社会?自然の諸問題を中心に、地理学の最新分野を幅広く学んでいきます。近藤くんは、大学で学んでいたときにドローンの存在を知ったんだよね。
- 近藤
- そうですね。大学に入る前はドローンの知識はまったくなく、自分で触ったこともなかったのですが、ゼミの同期生が地形計測などにドローンを使っていて、そこでドローンの存在を知り、興味を持つようになりました。
- 長谷川
- 彼のまわりには同期や下級生で、ドローンを使って卒業論文を書く学生がいましたからね。いまもドローンをツールにして研究している学生はいます。でも、近藤くんはそもそもどうして地理を学ぼうと思ったの?
- 近藤
- 父が測量会社を経営していて、小さい頃から測量の現場に連れていってもらっていたんです。それで将来は大手の地理関連の会社に入りたいと思い、国士舘大学で地理が学べるということを知って受験しました。
- 長谷川
- そうか。でも、なぜ国士舘大学だったの? 他にも地理を学べる大学はあったでしょう。
- 近藤
- あ、それは文系の大学で測量の資格が取れるところを調べていて、高校の地理の先生に相談したんです。自分は理系の科目が苦手だったんで、文系で地理が学べる大学はありますかって。そうしたらいくつかの大学を教えてくださって、その一つが国士舘大学でした。
- 編集部
- 国士舘大学に入ってみて、いかがでしたか。高校時代に抱いていたイメージと、実際に入ってみて印象は変わりましたか?
- 近藤
- 高校生のときは武道系の学校かなと思っていたんですが、実際に入学して世田谷キャンパスに通ってみると、全然普通の文系の大学っていう感じで、一般的なキャンパスライフが送れる大学だなと思いました。
- 長谷川
- 卒業後はどう? 社会人として国士舘大学はどんなふうに見えている?
- 近藤
- 卒業してからいろんなところで国士舘出身の方に出会うんですけど、情熱を持って働いてらっしゃる方が多いですね。僕の同期もそうですけど、一つの分野にしっかり根ざして生きている人が多いと感じます。あとは箱根駅伝にここのところ出場できているので、それが嬉しいです。
- 長谷川
- ああ、それは確かに嬉しいよね(笑)。
卒業後の進路について
- 編集部
- 近藤さんは国士舘大学を卒業して、どのような道に進まれたのですか?
- 近藤
- 大学卒業後は、国際航業という大手の航空測量会社に就職しました。入社して1年目は東京都の自治体営業という形で、都内の自治体に行って環境系の仕事を受注したり、あとGISという地理情報システムの営業をやっていました。
- 編集部
- そのGISとはどういうものでしょうか?
- 長谷川
- GISはGeographic Information Systemといって、日本語でいうと「地理情報システム」ですね。地図にはいろんな情報が載っています。ベースには地形があって、その上に植生があり、道路があり、鉄道があり、家屋がありといったように、何枚もの情報が重ね合わさっています。その一枚ずつの情報、たとえば地形と植生のデータを重ねれば、どんな地形にどういう植物が生えているかが分かります。また、地形と道路を重ねれば、どういう地形のところにどういう道路が通っているかが分かる。デジタルで一枚一枚の情報を管理して、複数の情報を重ね合わせ、分析していく技術のことをGISといいます。近藤くん、これで合っているよね。いまはあなたの本業なんだから(笑)。
- 近藤
- はい、合っています(笑)。
- 長谷川
- で、念願の測量業界に入ったわけだけど、その後に大きな転機があるんだよな。その転機のことをちょっと話してみてくれる?
- 近藤
- はい。入社2年目のときですが、勤めていた会社の親会社の経営企画部長に突然呼び出され、「ドローンファンド」というところがあるから、そこに出向してみないかと誘われたんです。ファンドとは投資家からお金を集めてベンチャー企業に投資する組織ですが、ドローンとか、業界に特化したファンドは珍しいんです。親会社もそのファンドに投資していて、せっかく大きなお金を預けるのだから若手社員を派遣してもいいんじゃないかという話が持ち上がり、僕に声がかかったみたいなんです。銀座でご飯をご一緒しながら、「こんな話があるけどどう?」と聞かれたので、翌日には「はい、行きます」って返事をしちゃいました。そこからは、もうどんどん話が進んでいって、自分でも咀嚼できないぐらい、いろんな人との出会いがあり、気がついたらいまここに居るっていう感じです。
- 長谷川
- そのとき、君は何歳だったの?
- 近藤
- 入社2年目ですから、ドローンファンドに出向したのは24歳です。2018年のことです。
- 長谷川
- なんでそんな若手を銀座に呼んで、食事までさせて、出向させたんだろうね。
- 近藤
- 後で聞いた話なんですが、ドローンは新しい業界なので、固定観念を持っていない若手をと思ったらしいんです。本当に2年目の4月から、右も左も分からない状態で、毎日社会科見学みたいでした。ファンドの代表は千葉功太郎さんという実業家で、個人投資家の方なんです。その人のかばん持ちをやって、いろんな人と出会うことができ、ドローンの知識や投資のことなど、さまざまなことを教えていただきました。あの1年は自分にとって大きな1年でしたね。
- 長谷川
- 事業を興すノウハウも千葉さんから学べたんですね。千葉さんのところへ行くという話を聞いたときに、おい、大丈夫かよ。せっかく国際航業という大手に入れたのに、そんなベンチャーに行って大丈夫なのって。そんなことを言った記憶がある。
- 近藤
- はい。そうですね(笑)。
- 長谷川
- 彼の卒業論文は理系なんですよ。彼は釣りをやる人で、清流の上流に釣り堀があるんだけど、そこでエサをまくわけです。そのエサまきが河川の下流部に影響を与えるんじゃないかと、そんな環境がらみの卒業論文でしたね。そういう知見や測量技術を活かして航空測量会社に入社したけれど、5年後には物流をやっているという、これも面白いですよね。ただ、こじつけになるかもしれないけれど、地理の世界は経済活動にもかなり関わっていて、そういう勉強も地理?環境コースではやりますから、決して無駄ではなかったと思います。経済地理という分野もあって、近藤くんはまさに文理融合を地で行っているような人ですね。
いまの仕事について
- 長谷川
- で、この小菅村で、いま君は何をやっているの?
- 近藤
- いまは、ドローンファンドの出資先の一つである「エアロネクスト」という会社にいます。もう一つ、エアロネクストの子会社の「NEXT DELIVERY」も立ち上げて、ここ山梨県の小菅村でドローン配送の実証実験をやっています。
- 長谷川
- ドローンを使って、過疎地の物流をやっているわけだ。
- 近藤
- はい。NEXT DELIVERYは、日本の地域物流を支えていくというビジョンを持った会社です。ドローンも輸送手段のひとつですが、他にも路線バスや高速バスなど、既存の物流システムを併用して、物流を最適化していきます。政府も地方からDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していくと政策を立てておりますので、ドローンをトリガーに各行政機関に入り込んでいるという感じです。こういう地域の課題を解決するためには、小さなベンチャー企業だけではできないので、セイノーホールディングスさんの力もお借りして、15名ぐらいのメンバーで取り組んでいます。
- 長谷川
- こういう過疎地は、物流の課題がいっぱいでしょう。
- 近藤
- はい、高齢化が進んでいる日本で、特にこのような山間地では、地域のコミュニティが維持できないくらい過疎化していますね。ただ、私たちは物流以外のことも考えていて、たとえば航空測量ですね。物流で飛んでいるドローンを使えば、同時に測量もできてしまうので、自然災害が起きたときに、どこが崩壊したとかそういう被災データが引っ張ってこられると思います。以前熱海市で起きた土石流も、廃棄物が知らぬ間に捨てられていて残土になっていたのが崩落しました。そういうものも、まんべんなく測量していれば防げると思います。今後、ドローンが日常的に飛べば、物流以外のさまざまなメリットがあると思っています。
- 長谷川
- そういうメリットは確かにありますね。日本は国が狭いから、国土地理院が主導して全国の空中写真を5年に1度ぐらいの頻度で撮り直すんですよ。ただ、いま彼がいったように、都市部は毎年のように空撮の撮り直しが行われていますが、過疎地は10年に1回とかなんですね。そうすると災害が起きたとき、どういう原因でそれが起こったのかを資料をもとに判断することが難しくなる。そういう面ではドローンを使って低空から高頻度で写真を撮っていれば、正確な地図ができるから、たとえば水道管一本引くにしても、道路を改修するにしても、高い金を出して航空機を飛ばすよりは安くできる。そういうメリットはありますね。
- 近藤
- たとえば、空き家の判読なんかもドローンを使ってできます。屋根にどれぐらい植物が生い茂っているとか、屋根がどれぐらい劣化しているかとか、判定項目をつくってそれをドローンで解析すれば、地域にどれぐらいの空き家があるのかを知ることができます。
- 長谷川
- あと、耕作放棄地なんかも判るよね。むしろ耕作放棄地なんかは、こういう山間地では日陰になってよく判読できない場所もあるので、人工衛星や航空写真を使うより、低空で飛べるドローンの方がメリットが大きいかもしれない。他にも、米や畑の農作物の生育状況とか、森林の判読とか、そういうこともドローンを使えばできますね。
- 編集部
- この場所に、高校生が社会科見学に来るという話を聞いたのですが、どんなことをするのですか?
- 近藤
- 社会科見学は多いですね。去年は3校の生徒たちが見に来ました。私が通っていた都留高校や、この前は甲府第一高校の探究科の生徒さんが見に来ました。ドローンが飛ぶところを見てもらい、ドローン物流のことや、村の活性化についてのお話をしています。こういう小さな村でも、こんな先進の取り組みがあるんだということを知ってほしいと思います。でも、すごく優秀な子たちでしたね。一時間半ぐらいの説明で、自分だったらこうしたいとか、経営目線で質問してくる子もいて。後日レポートもいただいたんですけれど、びっしり書いてあって、レベルの高さにびっくりしました。僕が高校生の頃には、絶対あんなふうには書けなかったです(笑)。
いまに生きる学び
- 編集部
- こうしてお二人の話をうかがっていると、お互いの距離がすごく近いように感じられるのですが、これは国士舘大学の特色なのでしょうか?
- 近藤
- 他の大学のことはよくわからないですが、確かにうちは先生と学生の距離が近いと思いますね。在学していたときもよくお話しさせていただきましたし、卒業後も継続してフェイスブックなどでやりとりをさせていただいています。
- 長谷川
- 学生数が少ないというところがあるよね。他の大学の地理学科なんかだと、1人の先生が抱えている学生が20人、30人というところもありますから。国士舘大学の文学部は少人数制で、近藤くんのときはゼミ生が7人だったよね。1学年の学生数が約70名で教員が7人いますから、平均10名という感じ。そういう意味じゃ恵まれた学びの環境ですよ。教員にとってもありがたいことです。
- 編集部
- 近藤さんは、大学にいたときはどんな感じの学生でしたか?
- 長谷川
- いや、まじめな人でしたよ。まじめだけど、適当に遊んでいるという感じだったかな。非常にファッションセンスのいい人でしたから。かばんなんかもすごくいいものを持っているから、なんでそんないいかばんを持ってるのって聞いたら、じいちゃんからもらいましたって(笑)。
- 編集部
- 逆に、近藤さんにうかがいますが、長谷川先生はどんな先生でした?
- 近藤
- 自分はもともと長谷川先生のもとで学びたいと思っていたので、自由にやらせていただいて、いろいろフィールドワークなども体験できたので、よかったと思っています。
- 長谷川
- うちは毎年夏に、学生と一緒に外に出かけてフィールドワークをやるようにしています。近藤くんは3年生のときに伊豆大島に行ったよね?
- 近藤
- はい、伊豆大島でした。ハザードマップの研究をやりました。
- 長谷川
- あれは2013年だっけ、伊豆大島で大規模な土石流があったんですよね。ちょうど大災害があった翌年か翌々年、我々はまだ復旧作業途中の伊豆大島に行ってフィールドワークをやりました。大島では大規模土石流の復興事業の他に、外輪山を流れくだる溶岩流を止める仕組みとか、そういう施設があって、そういうのも見に行ったりしたよね。おかげさまで“フィールドに強い国士舘”という評価を外部の方からいただいていて、とにかく外に出て調査しましょうという姿勢でやっています。フィールドに強いというのがうちのひとつの売りですね。
- 編集部
- そういう大学時代のフィールドワークの体験は、いまの仕事に役立っていますか?
- 近藤
- そうですね。フィールドの研究は現地に行かないと始まらないので。しっかりと計画を立てて、現地に行って、調査して、結果をレビューするという、そういうのはいい学びになりましたね。
- 長谷川
- うちの卒業生の全部が全部、地理関係の業界に進むわけではないんですが、でも、現場での調査の経験とか、その経験を活かして卒業論文をまとめるという一連の流れを身につけると、たとえば報告書を書くとか、そういうスキルは上がりますよね。
- 近藤
- そうですね。いま小菅村という地域にがっちり入り込んでいて、役場の人と話したり、近くに住んでいるお年寄りともよく話すんですけど、そうすると課題が明瞭になってきますね。未来的なバックキャスティング思考も大事だと思いますが、やっぱり現場でしっかりそういうことを話せる相手がいるというのも、エアロネクストやNEXT DELIVERYの強みだと思っています。
- 長谷川
- そうか、都会にいちゃ分からない課題が現場に来れば分かるものな。そういう意味じゃ、学生時代のフィールドワークが生きているわけだ。
- 近藤
- そうですね。あとはパソコンのある部屋でやっていたGISの授業がやっぱり面白かったです。大学の近くに松陰神社通り商店街があるんですが、GISの読み込みをすると、商店の推移が判るんですね。国際航業にいたときは、行政の水道課とか固定資産税課とか、さまざまな部署にGISを売っていくのが仕事でした。GISは社会インフラのひとつで、それが今後3Dになったり、ドローンを使ってデータを即時的に更新したりとか、そういう時代になっていくと思います。そのへんの基礎を大学で学べたのは大きかったですね。
今後のビジョンについて
- 長谷川
- 今後、ここの活動が一段落したらどうするの?
- 近藤
- エアロネクストの事業がおかげさまでいい感じで来ているので、まずは近い将来、東証に上場したいと思っています。一応ベンチャー企業なので、株式上場することを目指しています。私もドローンファンドにいたときに東証の鐘を鳴らすシーンを見させていただいて、人生経験の中であれはいいものだなぁと思っているので。それが20代終わりぐらいのタイミングなのですが、30代以降はまだ何をやるか分からないですね。いままでは本当に人との出会いで運よくやって来られたので、先のことはまだ全然計画にないです。
- 長谷川
- 運で来たっていうけど、実力もあるんじゃないの? それがなかったら運は付いてこないでしょう。
- 近藤
- ただ、地図のビジネスはどこかで継続してやりたいと思っています。こういう山間地域に来ると、住所が使えないという問題があります。小菅村もそうですけど、住所を入れても大雑把すぎて、山奥が表示されたりするんです。あと配送をするとなると、家の前というよりも、「あの畑のあの場所に」という指定が入ることが結構あるみたいで、いまセイノーホールディングスさんが苦労しています。だから、その場所をひとつひとつ座標化して地図に入れているということをやっています。
- 長谷川
- なるほど。XYZの座標さえ分かれば、ドローンは飛ばせるんですよ。緯度、経度、標高ですね。住所よりそっちが分かっているほうが配達はしやすいということだね。
- 近藤
- はい。あと高層マンションなどにドローンで宅配するとなると、やっぱりZ、つまり高さの入力が必要ですね。親機のドローンを上空にホバリングさせて、そこから子機がスルスルと降りてきて、バルコニーに設置したポートに荷物を置いていくという計画があります。マンションのデベロッパーとコラボして、そういうビジネスをやるという可能性はあると思っています。
- 長谷川
- いやぁ、すばらしいですね。私なんかが考えている以上のことが、現実社会では構想されていて、楽しみですよ。私も今日は近藤くんから、いろいろ新しい情報を仕入れさせてもらいました。これからも頑張ってね、応援しているよ。
- 近藤
- ありがとうございます。
- 編集部
- 今日はお二人ともありがとうございました。たいへん有意義な話をおうかがいすることができました。
長谷川 均(HASEGAWA Hitoshi)
国士舘大学 文学部 史学地理学科教授
●博士(理学)/法政大学 人文学科研究科 地理学 博士 単位取得満期退学
東京都立大学学位取得
●専門/自然地理学
近藤 建斗(KONDO Kento)
2017年度 国士舘大学文学部卒業
株式会社エアロネクスト コミュニティマネージャー
株式会社NEXT DELIVERY SkyHubプロジェクト執行役員
国際航業株式会社 先端技術?事業開発部 調査企画グループ
掲載情報は、2022年のものです。