国士舘大学政経学部政治行政学科を卒業した川内あおいさんは、現在、八潮市役所に勤務しています。国士舘大学の政経学部は2017年より八潮市と包括的連携協定を結び、学生が市役所に対して政策提言を行うプレゼンテーション大会などを実施しています。川内さんもこのイベントに参加して、ゼミの仲間と一緒に頑張りました。その経験が今の役所の仕事に生きているといいます。キャンパスを飛びだし、街で学ぶ政経学部の魅力について、お二人の対談を通してご紹介します。
政経学部の学び
- 編集部
- 石見先生におうかがいします。国士舘大学の政経学部の学びの特色は、どのようなところにあるのでしょうか。
- 石見
- そうですね。少人数制で学べるとか、初年次からゼミナールがあるとか、いろいろ特色はあります。私の個人的な見解になりますが、国士舘大学の政経学部の特色は、制度や科目ではなく、その根本にある学びの理念にあると思っています。国士舘の建学の精神、国を担う人材を育てるという、そこにこの学部の支柱があると考えています。
- 編集部
- 建学の精神ですか。それはどのようなものですか?
- 石見
- 国士舘の建学の精神は、「国を思い、世のため、人のために尽くせる人材」を養成するというものです。一言でいえば、世の役に立ち、いい社会を作る人を育てるということですね。これを「国士」と呼んでいます。こういう理念に基づいて、社会に関わるさまざまなことを学ぶ学部が政経学部だと思っています。
- 編集部
- なるほど。世の役に立つ人材ということですね。具体的にはどういう職種でしょうか。
- 石見
- どういう職種でも、まじめに働いていれば、世のため、人のために役立つと思います。そういう意味では職種は関係ありません。ただ、国士舘大学の政経学部でいうと、公務員の道に進む割合が高いようです。2024年の3月に卒業した全学生のうち、24%ぐらいが公務員になりました。教員、警察、消防、自衛隊等を含めての数字ですけれど。
- 編集部
- 全学生のうち約4人に1人の割合で、公務員になっているということですか。それはすごいですね。
- 石見
- これもひとえに学生たちの頑張りのたまものだと思っています(笑)。
- 編集部
- 政経学部の中で、先生はどんな専門分野の研究をなさっているのですか?
- 石見
- 私の専門分野は地方分権です。なぜ日本では地方分権がなかなか進まないのかということを、歴史をひもといたり、海外と比較したりして研究しています。
- 編集部
- 専門ゼミでも、そういったことを学生は学ぶのですか。
- 石見
- 以前はゼミでも地方自治の制度や仕組みを学んでもらっていましたが、正直いって、学生はあまり興味を持ちません。たぶん川内さんも興味なかったんじゃないかな(笑)。そういうこと。
- 川内
- いえいえ、そんなわけないですよ(笑)。興味ありましたよ。
- 石見
- 公務員になった今なら、法律や制度に関心はあると思うけど、学生のうちはピンと来ないですよね。だから、最近はゼミでもまちづくりに関することをやっています。
- 編集部
- まちづくりというと、どんなことですか?
- 石見
- ここ2年間ぐらいは、梅ヶ丘駅の商店街でハロウィンの運営をお手伝いしています。商店街は高齢化していて、課題を多く抱えています。お祭りやイベントの担い手がないので、そのお手伝いをしています。
- 編集部
- もう少し具体的にいうと?
- 石見
- 学生が中心でやっているのは、スタンプラリーです。商店街に4箇所ぐらいポイントを設けて、それぞれのポイントで、参加した子どもたちにじゃんけんや魚釣りなど、簡単なゲームをやってスタンプを集めてもらいます。各スタンプには文字が入っていて、4つの文字を並べ替えると正解のワードが出てきます。それを見せると景品がもらえるという仕組みです。企画から学生が考えて、商店街のハロウィンのときに実施しています。
- 編集部
- それは楽しそうですね。
- 石見
- 教室の中での座学より、よほど学びになりますね。
公務員になるきっかけ
- 編集部
- 川内さんは卒業後に公務員になられたのですよね。今はどのようなお仕事をされていますか?
- 川内
- はい、埼玉県の八潮市役所に勤務しています。区画整理課の事業推進担当というところに4年間いて、今年から異動して国保年金課に配属されました。
- 編集部
- 区画整理課では、どんな仕事をされていたのですか?
- 川内
- 区画整理課では、区画整理事業の主にお金に関する業務を担当していました。区画整理事業を進めていくなかで出てくる補償費や工事費の支払い、あとは予算資料の作成や、国から支給される補助金の申請などもやっていました。
- 編集部
- 川内さんはなぜ国士舘大学の政経学部に入学されたのですか?
- 川内
- いろんな大学が集まる合同説明会があって、そこで国士舘大学のブースに立ち寄ったら、すごく親身になって話してくださったんです。それでオープンキャンパスに行ったら、ちょうど「女子カフェ」というのをやっていて。そこで現役の大学生のお話などをうかがって、国士舘大学がいいなと思うようになりました。公務員試験に強いという話も耳にしたので。
- 編集部
- 初めから公務員志望だったのですか?
- 川内
- いえいえ、入学したときはまったく公務員になるつもりはありませんでした。ただ、私の祖父と母が教員免許を持っていたので、教員免許を取って、教師になる選択肢は持っておきたいなと思っていました。
- 編集部
- では、なぜ公務員の道へ? きっかけは何かあったのですか。
- 川内
- きっかけは、石見先生からインターンシップを勧められたことです。
- 石見
- ちょうど八潮市役所でインターンシップの枠があったんです。川内さんは八潮市から家が近かったので、軽い気持ちで行ってみないかと誘ってみたんですね。公務員試験の勉強をしていたかどうも分からなかったのですが。勉強してた?
- 川内
- いえ、全然。というか、公務員なんて無理だと思っていました。自分の進路の選択肢になかったですね。
- 石見
- インターンシップは、どこの課に行ったんだっけ?
- 川内
- 区画整理課に1週間と、公園みどり課に1週間と、合わせて2週間行かせていただきました。
- 編集部
- インターンシップではどんなことをやるのですか?
- 川内
- 区画整理課では、区画整理事業を行う前と行った後の写真を見せていただいて、実際にその現場に行ったりしました。また、公園みどり課では、市民から遊具が危ないという連絡が入ったときに、すぐに現地に見に行って、写真を撮って、対応策を一緒にお話しさせてもらったりしました。主に外に出て、市役所の方と一緒に動いていましたね。
- 編集部
- 体験してみて、市役所のイメージは変わりましたか?
- 川内
- 変わりましたね。市役所というと住民票などの書類を取るイメージしかなかったので。インターンシップで行った2つの課が、私の想像とまったく違って、こんなこともやっているんだという気づきがありました。それまで役所は自分とはかけ離れた存在だと思っていましたが、いろんなお仕事があると知って、いろいろな経験ができる職場なのかなと思いました。
- 石見
- 川内さんは、すごいんですよ。市役所の人に気に入られてね、送別会までやってもらったんですよ。普通、インターンシップで送別会はやりませんよね。
- 川内
- インターンシップのときは、市役所のみなさんに優しくしていただいて。もう最終日に私、大泣きしたんですよ。あんまり私が泣くもんだから、切なくなって送別会を開いてくださったのだと思います。
- 石見
- まだあるんですよ。もっとすごいのは、市役所の人が、川内さんが受験するつもりもないのに、わざわざ受験の申込書を持ってきてくれたんですよ。
- 川内
- そうなんです。書類を持ってきてくださって、これで八潮市の採用試験を受けなさいって。
- 編集部
- よほどに気に入られたんですね。市役所の人に。そこから公務員試験の勉強を始めたのですか?
- 川内
- はい。インターンシップが終わってからだから、3年生の夏ぐらいから始めました。ただ公務員一本ではなく、教職課程も取っていたので、教育実習もやりました。私の性格だと思うんですが、一つに絞るというよりも、複数の選択肢を持っていたいというのがあって、公務員の勉強をしながら一般企業の就職活動もやっていました。
- 編集部
- 大変だったんじゃないですか? 公務員の試験は難しいんですよね。
- 川内
- 大変でしたね(笑)。
- 石見
- 川内さんは教職課程も取っていたので、基礎的な教養があったんじゃないですか。八潮市の場合、専門分野の試験がなくて、教養試験だけなので。あとは小論文と面接ですよね。
- 川内
- はい。小論文と、集団と個人面接がありました。
- 石見
- そうするとやっぱり、今は面接試験の比重が高いと思いますから、川内さんはこういう感じなので強いですよね。
- 川内
- えっ、こういう感じって、どういう感じですか?(笑)
- 石見
- 市役所は市民を相手にする仕事ですから。市民ともめたり、職員同士でうまくいかなかったりすると困りますからね。公務員試験でも、今の時代は人間性が重視されるんですよ。
今に生きる学び
- 編集部
- 国士舘大学の政経学部と八潮市は、相互に包括的連携協定を結んでいるとうかがいました。これはどのようなものですか?
- 石見
- 国士舘大学と八潮市は、相互の発展と人材育成を図る目的で2017年に包括的連携協定を結びました。2018年から始めた「政策提言プレゼンテーション大会(現社会連携プレゼンテーション大会)」はその取り組みの一つです。川内さんは2018年の第一回大会に参加したんだよね。
- 川内
- はい、一回目に参加しました。
- 編集部
- これはどのようなことをする大会なのでしょうか?
- 石見
- 政経学部の全ゼミの中からエントリーして、八潮市に政策提言のプレゼンテーションを行って、その内容を競いあうという大会です。八潮市の方から課題が3つほど提示され、それに対する解決策を学生が考えて発表します。毎年10ゼミぐらいが参加しています。
- 編集部
- 川内さんのときは、どんな政策提言をしたのですか?
- 川内
- 私たちのときは、空き家対策をテーマに選びました。
- 石見
- 八潮市も例にもれず、空き家対策が行政の課題になっています。ここはわりと大きな川が流れているので、川から水生生物を採集して、空き家を水族館にしようとか。あとは経済的に塾に行けない子のための無料の学習塾を、学生ボランティアの力を借りて開くとか、そんな内容のプレゼンでしたね。あのときは、ゼミ生みんなで頑張ったでしょう。
- 川内
- 頑張りましたね。頑張ったことだけは、すっごく覚えています。
- 石見
- 2018年のその時期、私はイギリスに行って参加できなかったのですが、代わりの非常勤の先生が力を入れてくださって、すごくいいプレゼンテーションができたと思います。
- 編集部
- プレゼンテーションは、どのくらいの期間をかけて準備するのですか?
- 石見
- 8月ぐらいに市役所の方がヒアリングの場を設けてくださって、代表の学生4名ぐらいでレクチャーを受けました。そこから11月までの4カ月ぐらい、がっつりゼミ生みんなで取り組みます。
- 編集部
- それだけみんなで取り組むと、ゼミの連帯感が深まるでしょうね。
- 川内
- そうですね。ゼミ対抗みたいなところもあるので、団結力が生まれましたね。
- 石見
- 私はプレゼンに立ち会えなかったのですが、後で見たら、すごく立派な報告書なんですよ。プレゼンをやった学生は優勝できると信じていたみたいですが、残念ながら優勝できなかったみたいで。みんなですごく落ち込んだんだよね。
- 川内
- そうなんですよ。落ち込みました。プレゼンの後に北千住で飲み会があったのですが、祝勝会のはずがお通夜みたいになっちゃって。みんな無言で、とぼとぼと歩いて(笑)。
- 石見
- でも、彼らにとってはすごくいい経験になったと思いますよ。先生から言われてとか、親から言われてとかじゃなくて、自分たちで勝ちたいと思ってやってきたことだから。頑張っている同級生の姿を見て、自分も頑張らなくちゃと思う。それがいちばん大きいんじゃないかな。
- 編集部
- この経験は、今の仕事にも生きているんじゃないですか?
- 川内
- そうですね。ゼミ生のみんなで意見を出し合って、力を合わせて一つのことに取り組めたのはいい経験になりました。役所の仕事も同じですよね。職員のチームプレーというか、係のみんなで支え合って、仕事を分担してやっているので。ゼミのみんなで協力しあって、一つのことをやることを学べたのは大きかったと思います。
いつか人生の役に立つ
- 編集部
- 川内さんは、卒業論文は書かれたのですか?
- 川内
- はい。卒論は書きました。
- 石見
- ちょうどいい。今日は川内さんの卒業論文を持ってきているんですよ。
- 川内
- えー。やめてくださいよ。恥ずかしい。
- 石見
- テーマは「子どもの貧困と教育格差」ですね。政経学部では学生優秀論文コンクールというのをやっています。ゼミの教員が推薦する卒業論文で競うというコンクールで、川内さんは出すつもりはまったくなかったと思うんだけど、僕が出してみないかって言って、出してもらったんです。確か佳作を取りましたよね。
- 編集部
- 大学でサークルには入っていたのですか?
- 川内
- はい、子どもボランティア部というところに入っていました。地域の子ども祭りに参加して、子どもたちと一緒にスライムを作ったり、輪投げをやったり、いろいろ遊んで。そのためにバルーンアートの練習もしました。
- 編集部
- 子どもが好きなんですね。
- 川内
- 子どもは好きです。だから教員も将来の選択肢の一つとしてありました。
- 石見
- 川内さんは学校の先生になっても、きっといい先生になったと思いますよ。
- 編集部
- 石見先生にお訊きしますが、川内さんはどんな学生さんでしたか?
- 石見
- いや、もう見ての通り、まったくこんな感じでしたね。
- 川内
- え、じゃ、大人になってないってことですか? ちょっとは大人っぽくなりましたよね(笑)。
- 石見
- あのときのゼミは女子が少なかったんです。たぶん3人ぐらいだったかな。2年生の基礎ゼミのときからだから、川内さんは3年間、私のゼミで学んでくれました。図書館の上の6階にあるコラボレーション室でやってたよね。
- 川内
- そうですね。狭い部屋でした。
- 石見
- 毎週学生にひと言でいいから喋ってもらおうと思って、お題を出していたんですよ。「今まででいちばんびっくりしたことは何」とか、次の週は「いままででいちばん感動したことは何」とか。そうしたら毎週同じようなことをやるので、学生が「先生そろそろやめてください」って言うんですよね。そんなことをやっていたよね。
- 川内
- やってましたね。今日は何のお題が出るんだろうって。
- 編集部
- 今度は川内さんにお訊きしますが、石見先生はどんな先生でしたか?
- 川内
- 石見先生は、もうずっと変わらず穏やかで。いつも学生目線で話してくださる人で、教授なんですけど、こんなこと言っていいのかな? お父さんみたいな人でしたね。
- 石見
- そういえば、お父さんに似ているって言われたことがあるよね。
- 川内
- そうなんです。石見先生は私のお父さんにそっくりなんです。一緒に映っている写真をお母さんに見せたら、お母さんも「うん、似てる」って(笑)。
- 石見
- ご家族にも認めていただいたという(笑)。
- 川内
- なので、学生との距離がすごく近くて、いつも見守ってくださるという感じの先生でした。
- 編集部
- ゼミ生同士はどうだったんですか。仲がよさそうに思えますが。
- 川内
- ゼミ生はみんな仲良かったですね。みんな穏やかな感じで。いまでもゼミ長の子とは連絡取りあっています。この前もゼミ生のメンバーで飲みに行ってました。私はたまたま用事があって参加できなかったんですけど。
- 石見
- 本当に? 今度は僕も誘ってよ(笑)。
- 川内
- いいんですか。本当に誘っちゃいますよ(笑)。
- 編集部
- 今日は川内さんと久々に再会して、いかがでしたか? まさに国士という感じの方ですよね。
- 石見
- そうですね。今日、川内さんの成長した姿を拝見して思うのは、社会科学の学びは成果が出るまでに時間がかかるということですね。理科系であれば大学時代に身に付けた技術が即社会で役立つこともありますが、社会科学はそういう性質のものではない。学んだことがすぐ役立つとは限りません。でも、こうして見ていると、ゼミ生同士で仲よくなったり、ご飯を食べたり、一緒に課題に取り組んで頑張ったりすることが、長い時間をかけてその人を熟成させていくような気がします。これは社会科学の学びの特徴なのではないかと思いますね。
- 編集部
- なるほど。そのために政経学部はキャンパスの外に出て、いろいろ活動をするわけですね。今日はありがとうございました。
石見 豊(IWAMI Yutaka)
国士舘大学 政経学部 政治行政学科 教授 政経学部学部長
●博士(情報科学)/東北大学大学院博士課程修了
●専門/地方分権、地域政策、まちづくり
川内 あおい(KAWAUCHI Aoi)
2019年度 政経学部卒業
八潮市役所 国保年金課
掲載情報は、2024年のものです。