2023年07月25日
在外研究リポート(体育学部こどもスポーツ教育学科?田原淳子教授)
4月からスイス?ローザンヌの国際オリンピック委員会オリンピック研究センターを拠点に研究を進める体育学部?田原淳子教授(近代オリンピック史)からの現地リポートをお伝えします。
IOCの膨大な史料ひもといて
令和5年4月から半年間、学外派遣研究員としてスイスのローザンヌに滞在している。スイスの西南に位置するフランス語圏にあり、レマン湖沿いの美しい街である。天気のいい日には対岸にヨーロッパアルプスの最高峰モンブランが見える。
筆者は近代オリンピックの歴史において理念と現実がどのように対峙してきたのかを検討してきた。オリンピックの目的はスポーツを通して人類に貢献することである。そのための二つの柱「人間形成と世界平和」のうち後者に着目して、日本がオリンピックを通して国際社会に与えてきたインパクトについて明らかにしたいと考えた。
研究の拠点にしている国際オリンピック委員会(IOC)オリンピック研究センターには、IOC創設以来の膨大な文書類(議事録、書簡、新聞の切抜き等)が緻密に整理?保管されている。世界中から集められた図書や報告書類、デジタルデータも豊富にある。ここにいると、いくらでも研究のアイデアが浮かび、研究し続けられるような気がする。
出会いもある。たまたま居合わせた研究者と雑談を交わす中で、研究上のヒントを得たり、重要な論文や研究者の紹介を受けることもある。
初めてローザンヌを訪れたのは大学院生のときだった。招致に成功した1940(昭和15)年の東京オリンピックはなぜ返上しなければならなかったのか、その詳細をIOCの史料から解き明かそうとした。当時、IOC理事であった猪谷千春氏の紹介を得て、緊張気味にIOC本部の扉のベルを押したことを覚えている。温かく迎えてくださったのは事務局長(当時)のフランソワーズ?ツヴァイフェル氏だった。そこで夢中でコピーした史料で博士論文を執筆した。
それから30余年が経過した今年の6月23日。IOC設立を記念するオリンピックデーに、オリンピックハウス(IOC本部)は目白押しの行事で賑わっていた。招待を受けたクーベルタン賞の表彰式で、ツヴァイフェル氏に再会。オリンピック研究に携わるようになってからの歳月が蘇ってきた。
研究者としてはまだ道半ばだが、これまでに知り得た知見や経験を若い世代の研究者や学生に伝え、チャンスを与えていきたい。そしてスポーツを通じて人類に貢献するというオリンピズムの意味を問い、具現していくための取り組みを共に考え、ささやかでも実践していきたいと思う。
在外研究の貴重な機会を与えてくださった本学に心より感謝いたします。
- オリンピックハウスの表彰式会場で。左からツヴァイフェル氏、国際ピエール?ド?クーベルタン委員会事務局長のエルヴィラ?ラミニ氏、田原教授
- 研究センター職員のディエゴ?ジロー氏(右)と田原教授。オリンピック研究センターの図書室にて